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新・陰翳礼讚

陰翳礼讚は谷崎潤一郎の有名な(建築系には)日本の空間を描いたエッセイだが、こちら「新・陰翳礼讚」は日本の照明デザイナーのトップの石井幹子(いしいもとこ)さんのー美しい明かりを求めてーという石井さんのこれまでと、照明で出来ること、あかりのもつすばらしさを書いたものだ。

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照明デザイナーなる職種があるとは、もしかしたらご存じない方も多いと思う。なにしろ、その仕事が照明なので、夜の仕事とも言える(いや仕事するのは日中だろうけど)。とにかく暗くならないとその仕事の結果が現れないので、一般的にはなかなか認識されないかもしれない。でも、その照明の成し遂げる効果は大変なものがある。石井さんは各地でライトアップのプロジェクトをやっているが、ライトアップで事件をおこしているのだ。
本の中で紹介されている、東京タワーをライトアップして東京の新しい名所にまでしてしまったのも、石井さんだ。

本の中で、日本の伝統的なあかりのすばらしさ(家の中では障子から差す明かりや祭りのあかり)を再認識させ、今の日本の照明はピーカンに明るすぎると言っている。これは住宅の照明に限らず、事務所もレストランもだ。

確かにその通りだと思う。とくにレストランや飲食店で明る過ぎて興ざめなところが多い。
また、自分で設計する住宅の照明ではほんとに悩む。間接照明でやわらかく室内を照らして、本を読んだりするところにはフロアスタンドでなどと思うのだが、テレビを見るのが一家団欒という生活スタイルではテレビよりも明るくしなければならないし、そんな美しい生活シーンを望まれる建て主にもなかなか出会わない。アトリエ105で設計した住宅では上清水の家が割とうまくいったと思う。

大館で誰でも体験出来る間接照明の好例は樹海ドームのトイレだ。男子側では小便器の上の壁にグレア防止の板がついた簡単な蛍光灯と大便器ブースの建具の上に組み込まれた蛍光灯だけで、室内全体がちょうどいい明るさとなっている。今は省エネのために壁の蛍光灯は半分消されているが、それでも十分な明るさだ。アホみたいだけど、さすが伊東豊男事務所だとドームに行くたびに感心して見ている。

石井さんの名前は相当昔から知っていた。もしかしたら学生時代にはもう名前を聞いていたかもしれない。ということはもう30年以上前ということになるが、大阪万博のいくつかのパビリオンを担当したとのことだから、オレが学生時代にはもう日本の第一人者だっただろう。
東京芸大を卒業後北欧やドイツ、アメリカで修行をつんで日本に戻り、当時日本の建築で照明をデザインするという(いや照明でデザインするかな)ことがなかった時代にその分野を切り開いて来た方だ。大館を見てライトアップする気になるだろうか???。

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